有害性と発生メカニズム
 
 硫化水素は、主に圧力管路などの嫌気性の環境下で汚水中の硫酸塩(SO42−)が硫酸塩還元細菌により硫化水素(H2S)に還元されるために生じます。圧力管路の出口付近では、圧力管内で発生した硫化水素が気相中へ放散され、この硫化水素が、管壁の結露に溶け込み硫黄酸化細菌の生物作用により硫酸(H2SO4)へと変質し、自然流下管路などのコンクリート壁を腐食させます(図-1参照)。
下水道施設計画・設計指針と解説 前編 2001年版 日本下水道協会 より
図−1 圧送管内での硫化水素の生成と腐食域の概念図
 
 
 過去のいくつかの研究では、硫化水素の発生の原因及び条件が明らかにされており、@汚水の温度、ABOD濃度、B硫酸塩濃度、C管渠内の流速などが関与することが知られています。
 
硫化水素対策
(1) 基本的な対策
管路施設における腐食対策は、コンクリートの腐食メカニズムを断ち切ることが重要であり、次の対策があげられます。
表−6 硫化水素対策
@
硫化水素の生成を防止する
  空気、酸素、過酸化水素、硝酸塩等の薬品注入により下水の嫌気化を抑え硫化水素の発生を防止する。
A
管路を清掃し微生物の生息場所を取り除く
  管路の清掃により硫化水素発生の原因となる管内堆積物を除去し、また硫酸塩還元菌や硫黄酸化細菌の生息場所を取り除く。
B
硫化水素を希釈する
  硫化水素ガスが低濃度の場合、硫黄酸化細菌の増殖が抑制される。換気により管内硫化水素を希釈する。
C
気相中への拡散を防止する
  酸化剤の添加による硫化物の酸化、金属塩の添加による硫化水素の固定化等の方法により硫化水素の気相中への拡散を防止する。
D
硫酸塩還元菌の活動を抑制する
  硫酸塩還元細菌に選択的に作用する薬剤を注入し殺菌又は細菌の活動を抑制する。
E
硫黄酸化細菌の活動を抑制する
  硫黄酸化細菌に選択的に作用する薬剤を混入したコンクリート(防菌、抗菌コンクリート)を用いる。
F
防食材料を使用して管を防食する
  樹脂系資材や被覆(ライニング)等により腐食を受けるコンクリート表面を防護する。
※下水道施設計画・設計指針と解説 前編 2001年版 日本下水道協会 より
 
(2) 小規模施設での対策
 
 圧力式下水道収集システムや真空式下水道収集システムなどの収集システムは、汚水発生源に隣接した施設であり新鮮な汚水を短時間で収集するため、本質的に硫化水素が発生しにくい施設といえます。又、圧送距離が短いマンホールポンプ施設などの小規模輸送システムも嫌気状態が短時間となるため、硫化水素が発生しにくい施設といえます。
 
 硫化水素の影響が生じると前記のような対策が必要となりますが、小規模ポンプ施設ではコスト的に十分な対策を行うことが難しいため、施設の設計段階で硫化水素が発生しにくい施設とするために次に点に留意する必要があります。
 
@
圧力管路内の滞留時間を短くする。
圧送距離が長くなると1回のポンプ運転で圧力管路内の汚水を入れ替えることが難しくなり管路内の滞留時間が長くなるため、圧送距離は可能な限り短くします。
A
圧力管路内の流速を確保する。
一般的に圧力管路内の最低流速は0.6m/s以上といわれていますが、理想流速としては1.0m/s〜1.5m/sともいわれており、管内流速を1.0m/s以上を確保することで管内堆積物の低減が図れます。
B
汚水発生源の近くにポンプ施設を設置する。
流入管路内での管内堆積物が硫化水素発生の原因となりますが、汚水発生源の近くにポンプ施設を設けることで流入管路が短くなり管内堆積物の低減が図れます。
C
ポンプ運転間隔を短くする。
供用開始直後など汚水流入量が少ない時期は、ポンプ槽内での汚水滞留時間が長くなるため、ポンプ運転水位幅などを調整してポンプ運転間隔を一時的に短くすることで、滞留時間の低減が図れます。

※本文は、雑誌「月刊下水道」に投稿した原稿を加筆修正したものである。
 
作成日:平成19年12月18日
(社)日本産業機械工業会 排水用水中ポンプシステム委員会

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