はじめに
 
 制御盤の構造は、ポンプ出力・仕様・設置環境を考慮して選定します。
 
 設置環境とは、屋内外・風雪の影響・直射・道路環境・設置見栄え等を考慮する必要があります。また、設置場所において過去にどのような災害があったかも考慮して制御盤構造・設置方法を検討する必要があります。
 
ポンプ出力
 
 マンホールポンプ施設は、契約電力量が50kW未満で計画されるので、低圧電力の契約で電力会社から3相200V(需給契約種別:低圧電力)を受電します。また、2台同時運転がある場合を考慮し、ポンプ出力は22kw以下とします。なお、3相200Vで受電する場合で盤内照明及び100Vが必要な場合は、別途定額電灯または、従量電灯の需給契約を行う必要があります。
 
 マンホールポンプ施設用制御盤の一般的な回路を図-8に示します。
図−8 単線結線図(例)
 
立地条件
 
 マンホールポンプ施設は宅地内または道路下等に設置されるので、屋外型とし風雨・降雪に耐え得るものとするほか、必要な保護・管理機器を装備したものとし維持管理が容易な構造とします。マンホールポンプ施設用制御盤の形式には、図-9に示すように「自立形」「スタンド形」「壁掛形」「装柱型」「ポール形」があります。
図−9 制御盤の形式
 
(1) 自立形制御盤
 
 一般にポンプ出力11kW(スターデルタ始動)以上の制御盤に使用されます。盤内スペースが広く多くの内蔵機器が取り付けできます。
 
(2) スタンド形制御盤
 
 一般にポンプ出力7.5kW(直入れ始動)以下の制御盤に使用され、引込柱が無い場合や離れている場合にコンパクトに自立させるタイプです。
 
(3) 壁掛形制御盤
 
 一般にポンプ出力7.5kW(直入れ始動)以下の制御盤に使用され、引込柱が無い場合や離れている場合に建物などの構造物の壁に制御盤を取り付けるタイプです。
 
(4) 装柱型制御盤
 
 一般にポンプ出力7.5kW(直入れ始動)以下の制御盤に使用され、引込柱に制御盤を取り付けるタイプのため設置スペースが小さくなります。
 
(5) ポール形制御盤
 
 一般にポンプ出力7.5kW(直入れ始動)以下の制御盤に使用され、引込柱と一体構造のため、設置スペースが最も小さくなります。
 
操作回路
(1) 自動運転
 
 ポンプの自動運転は、ポンプ槽内の水位を水位計により検知して、ポンプの運転・停止を自動的に行うものとします。
 
 基本的な運転方式には、次のものがあります。
 
@ 単独運転方式
 ポンプ1台設置の自動運転方式で、圧力式下水道収集システムにおけるGPユニットの標準的な運転方式(契約電力はポンプ1台分)
 
A 並列交互運転方式
 ポンプ2台設置の2台運転を基本とする自動運転方式で、2台設置型のGPユニットの標準的な運転方式(契約電力はポンプ2台分)
 
B 単独交互運転方式
 ポンプ2台設置の1台運転を基本とする自動運転方式で、マンホールポンプ施設の標準的な運転方式(契約電力はポンプ1台分)
 
C 単独交互非常時並列運転方式
 ポンプ2台設置の1台運転を基本とし、水位上昇時には、ポンプ2台が運転する自動運転方式。回路的には A と同じですが、2台運転を基本とするか、1台運転を基本とするかの違いがあります。(契約電力はポンプ2台分)
 
(2) スカム対策運転
 
 予旋回槽などを用いたスカム対策形のマンホールポンプ施設においては、マンホール内の汚水が殆ど無くなる水位まで運転を行います。
 
(3) バックアップ運転
 
 水位計に投込み式・気泡式を用いたマンホールポンプ施設では、水位計の故障に備えて、高水位を検知した際にもポンプを運転する回路。
 
 通常運転用の水位計のほかに高水位を検知する転倒式水位計を設けてバックアップ運転を行います。バックアップ運転時のポンプ運転台数は、電力契約のポンプ台数とします。
 
(4) 故障時飛び越し運転
 
 2台設置のマンホールポンプ施設では、1台のポンプが故障した場合に、残りの1台が単独自動運転を行う「飛び越し運転」が可能な回路とします。
 
(5) 手動運転
 
 ポンプ手動運転に切り替えられる構造とします。手動運転は、任意のポンプを任意に運転・停止できる構造とします。又、手動運転時のポンプ最大運転台数は、電力契約のポンプ台数とします。
 
安全保護装置
 
 安全保護装置としては、一般的に以下の装置を設けます。
 
(1) 漏電保護装置
 
 各ポンプの主回路に漏電遮断器を設け、漏電が発生した場合は回路を遮断します。
 
(2) 電流計
 
 ポンプの運転状況を確認できるよう電流計を設けます。
 
(3) モータ保護装置
 
 モータ保護のため、三相電源の場合は2E(過負荷、欠相)または3E(過負荷、欠相、逆相)リレーを、単相電源の場合は1E(過負荷)リレーを設けます。
 
(4) 過負荷保護装置
 
 ポンプの過負荷保護装置には、図-10に示すように、サーマルプロテクタとオートカットがあります。
 
サーマルプロテクタ オートカット
図−10 過負荷保護装置(例)
 
 オートカットはポンプ内部で回路を遮断しますが、設置するポンプにサーマルプロテクタを内蔵する場合は、センサが動作した時に運転回路を遮断する保護回路を設けます(図-11参照)。
 
図−11 サーマルプロテクタ回路(例)
 
(5) 浸水保護装置
 
 ポンプの浸水保護装置には、図-12に示すように電極タイプとフロートタイプがあります。
 
電極タイプ フロートタイプ
図−12 浸水検知器(例)
 
 設置するポンプに浸水検知器を内蔵する場合は、センサが動作した時に運転回路を遮断する保護回路を設けます(図-13参照)。
 
図−13 フロート式浸水検知回路(例)
 
(6) 通報装置
 
 異常時対策として、警報用回転灯若しくは通報装置・監視装置を設けます。
 
(7) 停電対策
 
 停電対策として、可搬式発電機の使用を考慮する場合は、商用電源と発電機電源が同時に入らないようインターロック(双投型ナイフスイッチまたは機械的インターロック付配線用遮断器)を設けます。
 
雷害対策
 
 雷は、夏の入道雲だけでなく冬の雪雲でも多く発生するため、この様な地域では雷対策が必要となります。雷による被害には、「直撃雷」と「誘導雷」によるものがありますが、ここでは、誘導雷に対する雷害対策について記載します。
 
(1) 避雷器の目的
 
 電気機器は、雷などによる絶縁耐力以上の高い電位差を受けると絶縁破壊を起こし損傷します。特に通報装置・監視装置、水位計等の電子機器は絶縁耐力が低いため避雷器による保護が必要です。
 
 又、雷サージは電源側だけでなく電話回線や制御盤外部とのアナログ入出力信号線や接地線からも侵入するので、接地線を除く外部との接続ヶ所の全てに避雷器を取り付け、どの侵入口から見てもサージに対して同電位(※)になる様に対策します。
 
 雷害対策の効果を高めるためには、避雷器の接地線と機器の接地線を最短距離で接続し、その点より接地線を最短距離で大地に1点接地することが基本となります。ここで、避雷器から接地端子までの配線は IV 線 3.5mm2 以上とし、接地線は、IV 線 5.5mm2 以上の電線を使用します。
 
同電位とは電位差が0Vの状態を言います。
高圧線(6600V)に止まっている鳥を想定すると、地上と高圧線との電位差は6600Vとなりますが、鳥の電位も6600Vとなる為、鳥と高圧線との電位差は0V(同電位)となり、焼き鳥にはなりません。
 
(2) 電源用避雷器
 
 電源用避雷器は、図-14のように各相対地間だけでなく各相間にも取り付けます。
 
図−14 避雷器の使用例
 
(3) 電話回線用避雷器設置場所
 
 通報装置の電話回線用避雷器は、通報装置の極力近くに設置します。通報装置等が制御盤内の計器扉に設置される場合は、避雷器も計器扉に取り付けることが望ましい。なお、電話会社が取り付ける「保安器」は電話回線側を保護するものであり、これにより通報装置を保護することはできません。
 
(4) アナログ入出力用避雷器
 
 水位計のアナログ入出力など制御盤から盤外部へ長距離配線される場合は、その信号線専用の避雷器を設置します。
 
(5) 維持管理
 
 避雷器は、全ての雷サージを保護できるものではなく、又、雷サージを受けると消耗していくため、定期的に機能確認を行い、消耗時には交換する必要があります。
 
リレー方式とシーケンサ方式
制御盤の構成回路は未だリレー回路が主です。しかし、近年は制御盤の設置スペースの問題から小型化が必要となり、シーケンサ方式の制御盤が増えつつあります。
(1) リレー方式
 
 リレー方式は、リレー・タイマーリレー等を制御盤内で組み合わせて所定の制御を行うものです。
 
 比較的単純な制御を行う場合は、リレー点数も少なく安価なコストとなるほか、故障時の原因究明が容易で現場サイドでの部品交換で対応できますが、高度な制御を行う複雑なシーケンスでは、リレー点数が増加して制御盤の大型化により高価となるほか、故障時の原因究明も煩雑となります。
 
 一般に雷サージの影響を受けにくいのですが、タイマーリレー等の電子化も進んでいるため、基本的には雷害対策が必要です。
 
(2) シーケンサ方式
 
 シーケンサ方式は、リレー・タイマーリレーで構成されるリレーシーケンスをマイコン化したもので、高度な制御を行う複雑なシーケンスでも制御盤の小型化を実現できます。
 
 従来は、汎用シーケンサを用いて仕様に基づいてプログラミングする必要がありましたが、最近は、事前にマンホールポンプの運転パターンをプログラミングして大量生産によりコスト低減を図った専用シーケンサタイプが増えています。
 
 一般に雷サージの影響を受けやすいため、雷害対策を考慮する必要があり、又、故障時にはシーケンサ本体の交換が必要となります。
 
使い分け
 
 制御盤の仕様は、管路施設末端に設置される収集ポンプ施設か幹線の輸送ポンプ施設かによっても異なります。以下に各々の特徴を示します。
 
(1) 収集ポンプ用制御盤
 
 主に圧力式下水道収集システムのポンプ施設用として用いられる制御盤です。
 
 ポンプは小出力のポンプ1台設置の単独運転方式が主です。制御盤タイプとしてはスタンド形、壁掛け形、装柱形が選択されます。ポンプ2台設置する場合もありますが、その場合の運転方法はポンプ2台の並列交互運転となります。異常時の通報手段としては、住民の協力が得られることを前提として警報用回転灯のみとすることが多くなります。
 
(2) 輸送ポンプ用制御盤
 
 主に輸送システムのマンホールポンプ施設用として用いられる制御盤です。
 
 ポンプは2台設置の単独交互運転方式が主ですが、水位上昇時にはポンプ2台が運転する単独交互非常時並列運転方式とすることもあります。一般的にポンプ出力は大きくなり、制御盤タイプは自立形、装柱形のほかにポール形の採用も増えています。異常時の通報手段としては、重要性が高い施設であるため、通報装置・監視装置にて通報します。

※本文は、雑誌「月刊下水道」に投稿した原稿を加筆修正したものである。
 
作成日:平成19年12月18日
(社)日本産業機械工業会 排水用水中ポンプシステム委員会

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