渦流ポンプの導入
 
 汚水汚物用に使用される水中ポンプは、常に異物の閉塞という問題がクローズアップされています。
 
 これまでの水中汚水ポンプは、一般的にセミオープンタイプの羽根車が主流でした。しかし、スクリーンや破砕機での前処理が行われないポンプ施設では、ポンプに異物が詰まる可能性が高く、これまで以上に無閉塞性を確保したポンプの要求が高まっていました。異物の閉塞は、主に羽根車内で生じていたことから、ポンプケーシング内に大きな空間を持つ「渦流ポンプ」が世の中に登場しました。
 
渦流ポンプの特徴
(1) 構造
 
 渦流ポンプは、小口径ポンプ(主に口径150mm以下)において、ポンプケーシング内に異物が通過できる大きな空間を設け、無閉塞性を向上させたポンプです。
 
 ノンクロッグポンプに代表されるこれまでの汚水汚物用ポンプでは、図-18に示すように、ポンプケーシング内の汚水通過空間に羽根車が設置され、翼先端と吸込みカバーとの隙間も小さく、全ての汚水が羽根車の翼と翼の間を通過する構造となっているため、異物による閉塞・拘束・積層が生じる可能性がありました。
図−18 ノンクロッグポンプの構造
 
 これに対して渦流ポンプは、図-19に示すように、羽根車をポンプケーシングの上方に移動させて翼先端と吸込みカバーとの隙間を極端に大きくすることで、小口径ポンプであってもポンプケーシング内に大きな空間を確保しました。
 
 渦流ポンプは、羽根車の回転によりポンプケーシング内に渦を発生させ、この渦により異物を排出することで羽根車内を異物が通過しない(見掛け上、ポンプケーシング内に羽根車が無い)構造としました。
図−19 渦流ポンプの構造 
 
 異物通過径と無閉塞性の関係は、一般的に国土交通省仕様で設定されている53mm通過(口径80mm以上のとき)、農業集落排水で設定されている65mm通過があり、この基準をクリアできていれば、異物の閉塞はほとんどないとされています。
 
 ノンクロッグポンプに代表されるこれまでの汚水汚物用ポンプの異物通過率は口径の70%程度であり、この条件を小口径ポンプで実現することは難しいのですが、渦流ポンプの異物通過率は口径の100%(又は70%)であり、小口径ポンプでもこの異物通過径を容易に確保できます。
 
(2) ポンプ性能
 
 ノンクロッグポンプに代表される水中ポンプは、羽根翼により直接汚水を加圧搬送させますが、渦流ポンプは、羽根車により発生させた渦により間接的に汚水を加圧搬送します。このため、小水量高揚程運転域ではケーシング内での逆流が生じて性能が低くなります。逆に、大水量低揚程運転域では羽根車の抵抗が少ないため性能が高くなります。
 
 このように渦流ポンプの性能は、図-20に示すように最大揚程が低い“横流れ”の特性となっています。
  図−20 ポンプ性能
 
(3) エアロック
 
 渦流ポンプをはじめとする水中汚水汚物ポンプは、ポンプ始動時にはケーシング内を満水状態とする必要があり、ケーシング上端水位をポンプ停止水位とすることが基本となります。 
 
 ところが、マンホールポンプ施設のスカム対策として採用されている予旋回槽との組み合わせによる運転では、マンホール底部まで水位を低下させるためポンプ停止直後はケーシング内の水が落ちてドライ状態となります。
 
 次の水位上昇により空気抜き弁から空気が排除されてケーシング内は水で満たされますが、渦流ポンプは羽根車をポンプケーシングの上方に移動させているため、図-21に示すように羽根車部分に空気溜まりができて排水不能となる場合があります(この現象をエアロックといいます)。
  図−21 エアロック
 
 予旋回槽式のマンホールポンプ施設が登場した以降は、特に渦流ポンプのエアロック対策として、ポンプケーシング上端部に空気抜き弁や空気抜き穴を設けたり、羽根車部分の空気を吐出口側に導く構造としたりして、ポンプケーシング内部の空気がスムーズに抜ける構造としているため、ポンプ運転時にエアロックすることは稀です。
 
異物通過性能
 
 渦流ポンプは、異物通過径を重視した構造であり、異物通過率は口径の100%(又は70%)を確保しているため、本質的に異物が混入しても詰まりにくいポンプです。
 
(1) 容積の大きな異物
 
 容積の大きな異物の通過性は、吐出量の変化で異なってきます。渦流ポンプは、大水量運転域ではポンプケーシング内の渦に乗り吐出方向に向かって排出されますが、小水量運転域ではケーシング内の逆流現象により異物が戻される場合があります。しかし、ポンプにトルクがあると閉塞することなく運転しつづけ、ある時点で排出されます。
 
(2) 小さくて硬い異物(砂など)
 
 渦流ポンプは、羽根車の翼先端と吸込みカバーとの隙間が極端に大きいため、砂などによる拘束が生じることはありません。
 
(3) 軟らかくて長い異物(繊維物)
 
 渦流ポンプは、羽根車の回転により渦を発生させて異物を吐き出す仕組みをとっているため、比重の軽い繊維状の異物は、図-22に示すように羽根車中心部に集まり吐き出されない場合があります。しかし、ポンプにトルクがあると閉塞せずに運転しつづけ、ケーシング内に異物が団子状に堆積されつづけると、ある時点でバランスが崩れて吐き出されます。
図−22 軟らかくて長い異物の影響
 
(4) 面積の大きな異物(ビニルなど)
 
 渦流ポンプは、図-23に示すようにビニルなどの異物が羽根車前面に張り付いて渦の発生が弱くなる場合があります。しかし、ポンプにトルクがあると一時的に吐出量は減少しますが閉塞せずに運転しつづけ、ある時点でバランスが崩れて吐き出されます。
図−23 面積の大きな異物の影響
 
(5) 閉塞とポンプトルクの関係
 
 渦流ポンプには、2極電動機仕様と4極電動機仕様とがあります。一般的に2極電動機仕様の方が安価であるため建設コスト面では受け入れられやすいのですが、相対的にポンプ部が小さくなり大きな異物通過径を確保しにくくなります。又、トルクも小さくなります。
 
 前項でも述べましたが、渦流ポンプでは、比重の軽い繊維状の異物が羽根車中心部に集まり吐き出されない場合や、ビニルなどの異物が羽根車前面に張り付いて渦の発生が弱くなる場合がありますが、このような状態を解除するには、大きなトルクを必要とするため、よりトルクの大きい4極電動機仕様のポンプの方が過負荷故障を回避しやすくなります。
 
 下水道関連の技術書等では4極電動機の仕様が明記されており、2極電動機仕様の渦流ポンプは、スクリーンや破砕機で前処理された汚水の搬送や、異物流入に対して住民の協力が得られやすいポンプ施設での採用に限定するなど、現場の使用状況を十分把握した上でポンプの選定を行う必要があります。
 
問題とその対策
(1) 適正な異物通過径による高揚程化
 
 渦流ポンプは、羽根車により発生させた渦により間接的に汚水を加圧搬送するため、小水量運転域ではケーシング内での逆流が生じ揚程が低くなります。これに対して、羽根車の翼下端と吸込みカバーとの隙間を若干狭くすることで、羽根車により発生させる渦が強力になり、小水量運転域での高揚程化を図ることができます。
 
 渦流ポンプの異物通過率は口径の100%タイプと70%タイプがあり、70%タイプの方がより高揚程となります。現場の使用状況から必要とする異物通過径が70%タイプで満足する場合は、より高揚程の渦流ポンプが選定可能となります。
 
(2) インバータ制御による高揚程化
 
 渦流ポンプの特性として、小水量運転域ではポンプが必要とする動力は小さくなる傾向があります。これに対して、インバータ制御により小水量運転域では回転速度を速くすることで羽根車により発生させる渦を強力にして高揚程化を図り、逆に大水量運転域では回転速度を遅くするような回転数制御を組み合わせた渦流ポンプがあります。
 
 渦流ポンプにインバータが加わることで高価となりますが、現場の使用状況から異物通過率を小さくできない場合などでは、ポンプ出力を大きくすることなく高揚程化が可能となります。
 

※本文は、雑誌「月刊下水道」に投稿した原稿を加筆修正したものである。
 
作成日:平成19年12月18日
(社)日本産業機械工業会 排水用水中ポンプシステム委員会

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