はじめに
 
 水中汚水汚物ポンプの普及とマンホールポンプ施設の普及には、相互に非常に深い関係があります。
 
 着脱式の水中汚水汚物ポンプが登場する以前の汚水汚物ポンプは、汚水槽上部に電動機を設置する上屋が必要な立軸ブレードレスポンプ(図-1 左 参照)が全盛で下水道におけるポンプの主流でした。
 立軸ブレードレスポンプを用いた中継ポンプ場を建設するためには、先ず建設用地を確保する事から始めねばならず、小規模な中継ポンプ場を建設するにも長い期間と多大な建設費が必要でした。
 その後、水中汚水汚物ポンプに着脱式(図-1 右 参照)が採用されたことで上屋は必ずしも必要ではなくなり、道路下等に地下式の中継ポンプ場が建設されるようになりましたが、ポンプ槽は現場打ちのコンクリート水槽が主体で、FRP製のポンプ槽を採用したマンホールポンプ施設は特殊な場所以外には採用されませんでした。
(立軸ブレードレス) (着脱式水中ポンプ)
図−1 汚水汚物ポンプ(例)
 
 1980年頃にポンプ槽にコンクリート二次製品の組立式マンホールが採用され、又、1984年頃に予旋回槽が紹介されたことにより、現在のマンホールポンプ施設の基本的な構造が確立しました。これ以降、小規模な中継ポンプ場のほとんど全てが短工期で建設費が安いマンホールポンプ施設で建設することが主流となり、全国で爆発的に普及しました。又、マンホールポンプ施設に関する技術書等は、1984年以降に「日本下水道事業団」「(社)日本下水道協会」「(財)下水道新技術推進機構」などから設計指針やマニュアルの形で整備され現在に至っています。
 
水中汚水汚物ポンプ普及の歴史
 
(1)
 
 1964年に海外の技術が日本に導入され、国内で初めて着脱式の水中汚水汚物ポンプの製造・販売が開始されました。同時にFRP製のポンプ槽を採用したマンホールポンプ施設の技術も導入されましたが、普及しませんでした。
 
(2)  1973年にポンプメーカ各社が着脱式の水中汚水汚物ポンプの製造・販売を開始しました。これにより、着脱式の水中汚水汚物ポンプが国内市場で急速に普及しました。
 
(3)  1975年に東京都の父島にFRP製ポンプ槽のマンホールポンプ施設の1号機が設置されました。施設規模は、φ1,800mmのFRP製ポンプ槽にφ150mmの着脱式水中汚水汚物ポンプを2台内蔵しています。
 
(4)  1977年に鎌倉市にFRP製ポンプ槽や大口径のヒューム管をポンプ槽としたマンホールポンプ施設が設置されました。住居が密集した古都であるためポンプ施設の建設用地も無く、また道路が狭く建設機械も入れない様な地域の下水道整備に適したポンプ施設として採用されました。
 
(5)  1980年頃にポンプメーカと組立式マンホールメーカとで、コンクリート二次製品の組立式マンホールをポンプ槽としたマンホールポンプ施設が考案されました。これにより、ポンプ槽のみを管路と共に先行して設置でき、内部のポンプ施設は供用開始時期に合わせて後から設置できるため、FRP製ポンプ槽に代わって全国的に急速に普及しました。
 
(6)  1984年にスクリューポンプと予旋回槽を組み合わせたタイプが登場し、これ以降、渦流ポンプタイプやノンクロッグポンプタイプでも予旋回槽との組み合わせによるスカム対策形のマンホールポンプ施設が主流となりました。
 
技術書等におけるポンプの変遷
 
 1984年以降のマンホールポンプ施設に関する技術書等に記載された着脱式水中汚水汚物ポンプのタイプを見ると、その当時に広く採用されたポンプタイプの変遷がうかがえます。
 
(1)  1984年(注@)には、ノンクロッグタイプ、渦流タイプ、チヨッパ又はカッタ付タイプが記載されており、この当時は、ノンクロッグポンプにカッタ機構を設けた「チョッパ又はカッタ付きタイプ」も採用されています。
 
(2)  1987年(注A)には、渦流タイプ、スクリュータイプ、ノンクロッグタイプ、チョッパ又はカッタ付タイプが掲載されており、初めて「スクリュータイプ」が登場しました。これに併せて、スカム堆積防止として予旋回槽(予旋回室)も参考記載されました。
 
(3)  1996年(注B、C)には、渦流タイプ、スクリュータイプ、ノンクロッグタイプが記載されており、「チョッパ又はカッタ付タイプ」は技術書等からは削除されました。
 
(4)  1997年(注D)には、渦流タイプ、スクリュータイプ、ノンクロッグタイプが記載されており、ここでは、ポンプに必要とする最小通過粒径として35mm以上が明示され、又、スカム対策として予旋回槽・釜場等が標準となりました。
 
(5)  2004年(注E)には、渦流タイプ、スクリュータイプ、ノンクロックタイプが記載されており、ここでは、ポンプ最小口径が[80mm]から[65mm]に変わり、また[50mm以下]については破砕機構付き小型水中汚水ポンプ(グラインダポンプ)を使用する事が明示されました。
 
技術書等文献
@ 『小規模下水道計画・設計指針』 (社)日本下水道協会
 1984年(昭和59年)
A 『マンホール形式ポンプ場・設計指針(案)』 日本下水道事業団
 1987年(昭和62年)
B 『小規模下水道計画・設計・維持管理指針と解説』 (社)日本下水道協会
 1996年(平成8年)
C 『小規模汚水中継ポンプ場設計要領(案)』 日本下水道事業団
 1997年(平成9年)
D 『下水道マンホールポンプ施設技術マニュアル』 (財)下水道新技術推進機構
 1997年(平成9年)
E 『小規模下水道計画・設計・維持管理指針と解説』 (社)日本下水道協会
 2004年(平成16年)
 
マンホールポンプ施設の変遷
 
 マンホールポンプ施設と水中汚水汚物ポンプの歴史を見ると、
@ 水中ポンプに着脱装置の採用
A ポンプ槽にコンクリート二次製品の採用
B スカム対策に予旋回槽の採用
 が、現在のマンホールポンプ施設の普及に大きく貢献しており、又、市場の要求に応じて使用されるポンプタイプも徐々に変化してきたことがわかります。
 

※本文は、雑誌「月刊下水道」に投稿した原稿を加筆修正したものである。
 
作成日:平成19年12月18日
(社)日本産業機械工業会 排水用水中ポンプシステム委員会

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